完璧な現像のために-使用フィルムに最適の現像データをゼロから見つける方法
フィルムを完璧に現像するためには、フィルムと現像液の組合わせをテストすることが必要になります。
フィルムおよび現像液メーカーは、私たちに推奨現像時間が記載されたデータシートを提供していますが、多くの場合、その現像時間をそのまま使うのではなく、私たちの作業スタイルに合わせて修正する必要があります。
(SPUR社だけは例外です。彼らは極めて詳細なデータシートを提供しています。私モーグは彼らの正確なデータから常に良い結果を得ています)
しかし、お使いのフィルム/現像液の組合せのデータを見つけることができない場合もあります。
そんなときは、ご自身でテストを行う必要があります。
以下に、どのようにして使用フィルムに対する最適の現像データを見つければよいのか、その方法を順番に記そうと思います。
Step0 :テスト用フィルムの準備
Step1 :フィルムの本当の感度を見つける
Step2 :現像時間を見つける
Step3 :攪拌回数を見つける
Step0 :テストフィルムを準備する
テスト用に135/36フィルムを準備します。一度のテストに135/36フィルム 半ロール分が必要になります。
また、テストデータを書き込むメモ紙と「ゾーンスライド」を作成するための厚紙、それぞれA4サイズ位のものを用意します。
Step1 :フィルムの本当の感度を見つける
最初のゴールは、選んだ現像剤における、そのフィルムの本当の感度を見つけることです。最適のフィルム感度は、使用する現像液によって異なります(もちろん水質や攪拌も影響しますが)から、まずはそれを見つける必要があります。
メーカーが私たちに与えているフィルム箱記載の感度(=ボックススピード)は、正しくない場合が多いです。
例えば、多くのISO 400/27°フィルムは、実際にはだいたいISO 200/24°以上です。
1 カメラとレンズを選ぶ
まず、カメラとレンズを選びます。35mmフォーマットには85mmあたりのレンズが良好です。また、電動シャッターつきのモダンなカメラが好ましいです。
通常、シャッタースピードがより正確ですし、絞りの小さなステップをちょくちょく調整することができるからです。
2 フィルム感度を決めてその感度で撮影する
次に、撮影したいフィルムのフィルム感度を決めます。例えば、ASA 400フィルムを使ってASA 200でテストしてみたい、というように。
テストフィルムの最初の写真は、ディープシャドウ部とハイライト部、そしてその間のトーンが全て含まれる通常の写真でなければなりません。
シャドウが大部分を占めていたりハイライト部が多すぎるというような写真とならないようにしてください。
そして、このテストのためにASA 200を使うことに決めたのでしたら、もちろんASA 200でテスト写真を撮ります。
これは後で粒子と全体的な表現を判断するために使うことになります。
3 テスト用ストリップを作る
引き続きテスト用ストリップを作っていきます。撮影ターゲットとして、グレイカードやライトボードまたは曇り空など、均一に照らされている1色の表面を選びます。撮影対象を均一に照らされた1色の表面となるようにするためには、レンズの前にマットスクリーンを作ります。
マットスクリーンは、クリアフィルター(あるいはレンズ)*の前にディフューザー**を乗せ、テープを巻いて留めるだけで完成します。
*レンズの前に直接ディフューザーを乗せるよりクリアフィルターに乗せたほうが着脱がより楽になります。
**ディフューザーとして使用するものは、光を拡散させ均一な光にするもの(暗いところと明るいところがないもの)であれば何でもよいです。
乳白色ガラスや乳白色プラスチックのようなものが最適です。トレーシングペーパーを重ねて利用するのも良いアイデアです。
例えば空の写真を撮る場合、青空は青いのでNGです。均一に曇った空がベストです。
でも曇り空にも明るいところと暗いところがありますので、クリアフィルター(あるいはレンズ)の前にディフューザー(トレーシングペーパー、乳白色ガラス/プラスティックなど)を付けることで、ネガに均一な濃度を与えて写すことができます。
また、外付け露出計 または TTL内蔵ではない露出計を使用する場合、露出測定時に露出計の前に同じディフューザーを使用する必要があります。
これでテストを始める準備完了です。
4 写真シリーズを制作する
レンズの焦点を無限にセットし、最初に決めたASAを下表に見つけ、それに従って最初の写真シリーズを制作します。 【重要】後で濃度を測定する際、基準となるゼロ設定(ベース&フォグ濃度)が必要となるため、空白のフレームを含めることを忘れないでください。
空白のフレームは、最小絞り、レンズキャップをつけた状態で最速シャッタータイムで撮影して作成します。
ISO 50/18° | ISO 100/21° | ISO 200/24° | ISO 400/27° | ISO 800/30° | ||
Nr. | Zone | ISO | ISO | ISO | ISO | ISO |
1 | 0 | 1600/33° | 3200/36° | 6400/39° | 12500/42° | 25000/45° |
2 | Ⅰ+2 | 1250/32° | 2500/35° | 5000/38° | 10000/41° | 20000/44° |
3 | Ⅰ+1 | 1000/31° | 2000/34° | 4000/37° | 8000/40° | 16000/43° |
4 | 1 (Ⅰ) | 800/30° | 1600/33° | 3200/36° | 6400/39° | 12500/42° |
5 | Ⅱ-1 | 640/29° | 1250/32° | 2500/35° | 5000/38° | 10000/41° |
6 | Ⅱ-2 | 500/28° | 1000/31° | 2000/34° | 4000/37° | 8000/40° |
7 | 2 (Ⅱ) | 400/27° | 800/30° | 1600/33° | 3200/36° | 6400/39° |
8 | 3 (Ⅲ) | 200/24° | 400/27° | 800/30° | 1600/33° | 3200/36° |
9 | 4 (Ⅳ) | 100/21° | 200/24° | 400/27° | 800/30° | 1600/33° |
10 | 5 (Ⅴ) | 50/18° | 100/21° | 200/24° | 400/27° | 800/30° |
11 | 6(Ⅵ) | 25/15° | 50/18° | 100/21° | 200/24° | 400/27° |
12 | 7 (Ⅶ) | 12/12° | 25/15° | 50/18° | 100/21° | 200/24° |
13 | 8 (Ⅷ) | 6/9° | 12/12° | 25/15° | 50/18° | 100/21° |
14 | 9 (Ⅸ) | 3/6° | 6/9° | 12/12° | 25/15° | 50/18° |
15 | 10 (Ⅹ) | 1.6/3° | 3/6° | 6/9° | 12/12° | 25/15° |
それぞれのISO設定で、表にある設定に従って写真を15枚制作します。
常に適正露出を得るために絞りを調整します。露出時間を変更することはお勧めしません。
例えば―テストしたいフィルムがISO 200/24°だとします。
①上の表にある、"ISO 200/24°"の列を参照します。
②最初の写真(Nr.1)は、あなたのカメラを感度 ISO 6400/39°(=ASA 6400)に設定します。
③露出計が適正露出を示すまで、絞りを調整します。
④写真を撮影します。
⑤2番目の写真(Nr.2)は、カメラを ISO 5000/38° (= ASA 5000)に設定します。
⑥露出計が適正露出を示すまで、絞りを調整します(調整された感度は今、1/3ストップ低いので、最初の写真のためのよりも絞りは1/3ストップ大きくあるべきです。露出は同じままです。)
⑦写真を撮影します。
⑧この手順を続けて、上表の設定に応じた15枚の写真作成を行います。
また、絞り範囲が十分でない場合、カメラをライトボードあるいはグレイカードから離して移動するか、あるいはNDフィルタを使用することができます。
テスト中は、ライトの条件が同じままであることが重要です。
あなたの撮影対象物(ライトボード、グレイカード、曇り空、壁など)が写真全体を完全に埋めている必要があります。
用意したメモ紙に、各写真の設定(絞り、時間、フィルタ)を書き留めていきます。
5 現像する
さあ、フィルムを巻き取り、カメラから出します。フィルムリーダーを、フィルムの通常幅が始まっている箇所でカットします。
今、そのフィルムを暗室へ持って行き、チェンジバックに入れて72cmを測定し(135/36フィルムの半分にあたります)、そこでカットします。
カットしたフィルムを現像タンクにいれて現像します。
現像の設定(現像液名、希釈、温度、時間、攪拌)を先ほどのメモ紙に書きとめておきます。
6 濃度を測定する
フィルムが乾燥したら、各フレーム濃度を測定します。 あなたがデンシトメーター(濃度計)をお持ちでない場合は、シルバーソルトにテストフィルムを送ることができます。私たちがあなたに代わって濃度を測定します。
フィルム濃度測定サービスをご利用の方は、ここまでのステップでテストフィルムの作成は終了です。テストフィルムを私たちまでお送りください。
詳しくはこちらをお読みください。
【!重要!】
フィルムを私達まで送る際には、現像済みの空白のフレーム、または現像済みの未露光フィルム片(たとえばフィルムストリップの先頭または末尾などにある)を、必ずフィルム内に含めてください!
空白のフレームは、最小絞り、レンズキャップをつけた状態で最速シャッタータイムで撮影して作成します。この部分を測定し、基準値(ベース&フォグ濃度)とします
7 データ表を作成する
メモ紙に濃度データを入れて(下画像のような)データ表を作成していきます。このデータを、下の「DIN ISO 6:1996-02標準グラフ」と比較します。
この表から各ゾーンの標準グラフ濃度を知ることができます。
Zone | 0 | 1 (Ⅰ) | 2 (Ⅱ) | 3 (Ⅲ) | 4 (Ⅳ) | 5 (Ⅴ) | 6 (Ⅵ) | 7 (Ⅶ) | 8 (Ⅷ) | 9 (Ⅸ) | 10 (Ⅹ) | 11 (Ⅺ) |
Density (lgD) | 0.00 | 0.10 | 0.24 | 0.38 | 0.54 | 0.72 | 0.90 | 1.10 | 1.29 | 1.48 | 1.67 | 1.85 |
上図DIN ISO表からグラフにデータ変換した場合、以下のグラフが得られます:
8 ゾーンスライドを作成する
上の写真にあるような、「ゾーンスライド」を自作します。上方のゾーンスライドには、「DIN ISO 6:1996-02標準グラフ」のデータをそのまま書き写します。
記録用メモに記したあなたの測定データを、下方のゾーンスライドの上半分に記入します(緑色で囲んだ部分)。
標準データの記された上方のゾーンーンスライドにある番号と、あなたのデータを記した下方のゾーンスライドにある番号が、縦に揃うようにして並べます。
9 データの解釈
あなたのデータ(下方ゾーンスライド)と、マスターデータ(上方ゾーンスライド)とを比較します。マスターデータは標準的なISOスタンダードデータです。テストフィルムの最初の重要なポイントは、0.1 - 0.12の濃度値を有するフレームが、何フレーム目にあるかです。
濃度0.1は、ISO規格によれば、ゾーン1に対して定義された濃度です。
4フレーム目のフィルム濃度値が0.1であれば、私たちは既に正しいフィルム感度を発見したことになります。
5フレーム目の値が0.1-0.12の場合、私たちは感度を1/3ストップまたは1 DIN低くする必要があります。
3フレーム目の値が0.1-0.12の場合、私たちは感度を1 DIN高くすることができます。
6フレーム目の値が0.1-0.12の場合、私たちは感度を2/3ストップまたは2 DIN低くする必要があります。
上記の例では、下方ゾーンスライドを1フィールド、左にスライドさせる必要があります。
これは、このテストフィルムをISO 100/21°で撮影した場合、この現像液において、フィルムはISO 80/20°の感度を持っているということになります。
この方法での最大誤差は、1フルストップです。
0.1のターゲットフレームが3フレーム以上 Zone I フィールドから離れている場合、テスト用ストリップシリーズを、新たに撮影して作り直す必要があります。
Step2:現像時間を見つける
このデータをエクセルなどのスプレッドシートプログラムに入力することによって、グラフを表示することができます。青はDIN ISO標準データ、赤は測定データを示すグラフです。
ここでの重要なポイントは、ゾーンVIII(ゾーン8)の濃度値です:
もしZone VIIIにおける濃度が、標準データのグラフよりも著しく高い場合は、現像時間を短くする必要がありますし、それよりも低い場合は、現像時間を延長する必要があります。
Step3:攪拌回数を見つける
グラフの形状がS字状を描いている場合、グラフが直線に近づくよう、攪拌リズムを変えて実験してみることです。しかし、いくつかのフィルムはS字状を特徴としていて直線ではないことに注意してください。これは、このフィルムの性質であり、それを直線に変えることが不可能な場合があります。